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大阪高等裁判所 平成7年(行コ)87号 判決

大阪府堺市高倉台三丁一八番二号

控訴人

村田政勇

右訴訟代理人弁護士

大槻龍馬

仁藤一

真鍋能久

大阪府堺市南瓦町二-二〇

被控訴人

堺税務署長 櫻内勲

右指定代理人

山崎敬二

北畠昭二

西浦康文

寺嶋芳朗

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一申立て

一  控訴人

1  原判決を次のとおり変更する。

2  被控訴人が控訴人に対して昭和五二年一〇月五日付けでした控訴人の昭和四八年分及び昭和五〇年分の各所得税についての各更正(昭和五〇年分については、昭和五五年三月一二日付けでした再更正により一部取り消された後のもの)及び過少申告加算税・重加算税の各賦課決定並びに昭和五五年三月一二日付けでした昭和四九年分の所得税についての再更正(昭和五二年一〇月五日付けでした同年分の更正を含む。)及び過少申告加算税・重加算税の各賦課決定のうち、総所得金額が、昭和四八年分について二一七六万九五七〇円、昭和四九年分について四六八二万一八二一円、昭和五〇年分について九七三八万七三四五円を超える部分(ただし、昭和四八年分及び昭和五〇年分については、裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決「第二 事案の概要」に摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決四枚目裏九行目の次に改行の上、「7 しかしながら、控訴人の本件各年分の総所得金額は、前記申立ての趣旨第2項掲記の各金額であるから、請求を減縮して、本件更正等及び再更正等のうち、これら金額を超える部分の取消しを求める。」を加え、同一一枚目裏一〇行目の「3 後日」「後日」と改める。

二  当審における当事者の補充主張

1  控訴人の主張

(一) 原判決添付別表25の一の番号7の小切手による支出金三一万円は、回収不能になった貸金であるから損金処理を認められるべきである。備考欄に「雑損」と記載されているのは回収不能を意味するものである。

(二) 別表25の一の番号12、13は、いずれも手形による支出金であるが、該手形の控えには、それぞれ「割って91万」、「割って89」という記載があることからすれば、控訴人は、右各手形により九一万円及び八九万円の各割引金を得たと認めるのが相当である。

(三) 別表25の三の番号7の手形による支出金二〇〇万円は、加藤俊雄の「質問てん末書」(甲七三号証)及び手形受戻帳(甲五九号証)の各記載に照らせば、うち一〇〇万円、後日、加藤俊雄から返済されたと認めるのが相当であるから、右一〇〇万円は事業主貸しとはならない。

(四) 別表25の二の番号14、15及び右(一)ないし(三)以外の別表25の一ないし三の各支出金は、いずれも南堺病院の事業経営に必要な経費として加藤俊雄に支払われたものであるが、その額が余りにも高額なのは、いわゆる「医者の世間知らず」と加藤俊雄の給与を節税対策等から月額一二万円ないし一五万円と低く抑えていたためであり、これに、同人が、昭和四八年ないし昭和五〇年当時、右給与では到底考えられないほどの飲食をしていた(甲九六号証の二)ことを勘案すれば、右各支出金の経費性は十分認められる。

二  被控訴人の主張

別表25の三の番号7の小切手による支出金が、仮に控訴人主張のとおりだとしても、被控訴人は、加藤俊雄から控訴人に返済された一〇〇万円については事業主貸しと認定していないのであるから、右主張は失当である。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人の被控訴人に対する本訴請求は、原判決が認容した限度において正当として認容し、その余は棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり控訴人の補充主張等に対する判断を付加するほか、原判決の「第三 争点に対する判断」に説示のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決二一枚目裏一行目の「別表」から同一三行目末尾までを後記1のとおり、同二三枚目表四行目の「別表」から同裏一行目末尾までを後記3のとおりそれぞれ改める。

1  別表25の一の番号7の支出金について

甲七号証の二、五八号証、乙二号証、控訴人本人の供述によれば、控訴人は、昭和四八年ころから、加藤俊雄に対する支出金の内容を把握するため、これを手形や小切手で交付するようになっていたところ、同年七月五日、控訴人は、加藤俊雄に対して、同人の手形決済資金として、返済期限を同月一三日との約で、額面三一万円の小切手を振出交付したが、その際、右振出行為を担当した南堺病院の事務職員は、右小切手の控えの備考欄に「雑損」と記載したことが認められる。

右事実によれば、右小切手の振出交付は、加藤俊雄に対する貸付金であると認めることができる。しかしながら、右「雑損」の記載が、振出交付の際に記載されたものであることに照らすと、右貸付金の回収不能を意味するものとは到底いえず、他に右回収不能を認めるに足りる証拠はない。よって、1についての控訴人の主張は採用できない。

2  別表25の一の番号12、13の各支出金について

乙五号証、控訴人本人の供述によれば、昭和四八年から昭和五〇年ころにかけ、控訴人は、南堺病院の資金繰りのために、何回か加藤俊雄に手形割引を依頼したことがあったが、割引金は全て銀行に振り込まれていたことが認められるところ、控訴人が割り引いてもらったと主張する右各手形については、その割引金が銀行に振り込まれたと認めるに足りる証拠はなく、また、甲一二、一三号証の各二、五九号証によれば、右各手形は、手形受払帳ではいずれも「税(加藤)」とのみ記載され、手形割引を受けた場合の記載とは異なっていることが認められる上、控訴人本人の供述によれば、手形や小切手の控えの記載は、必ずしも振出時に記載されたものではなく、その内容も必ずしも正確ではないことが認められ、右事実によれば、右各手形の控えの備考欄の「割って91万」(甲一二号証の二)、「割って89」(甲一三号証の二)の各記載のみをもって、右各手形が加藤俊雄によって割り引かれ、控訴人が九一万円及び八九万円の交付を受けたとまで認定することはできない。よって、2についての控訴人の主張は採用できない。

3  別表25の三の番号7の支出金について

甲五九、七〇、七三、一〇一号証によれば、別表25の三の番号7の小切手による支出金二〇〇万円については、控訴人は、後日、加藤俊雄から一〇〇万円の返済を受けたことが認められるが、同表の番号8、9の記載内容及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、右二〇〇万円のうち一〇〇万円を、結局、事業主貸しとして認定しなかったことが窺えるので、3についての控訴人の主張はそれ自体失当ということになる。

4  別表25の二の番号14、15及び右1ないし3以外の別表25の一ないし三の各支出金について

甲九六号証の二、弁論の全趣旨によれば、加藤俊雄は、昭和四八年ないし昭和五〇年にかけ、複数のクラブや飲食店において、通常では考えられないほどの飲食をし、多額の飲食代金を支払っており、その中には、個人的な飲食代金もかなり存在することが認められ、右事実によれば、右飲食代金の全てが南堺病院の必要経費として消費されたとは到底いえない上、乙一三号証、控訴人本人の供述によれば、控訴人は、遅くとも昭和四八年ころには、加藤俊雄が税務対策のために必要であるとして、金員を要求してくるのは口実にすぎないのではないかとの疑いを抱いていたこと、昭和四九年二月ころ、加藤俊雄が税務対策費として多額の金員を要求してきたのを断ったことから、同人と口論になり、その際、同人から「今まで、私が病院を守ってきたが、そのためには相当経費が要っている。税務署が調査に来たら、五年位遡るから、病院が維持できるかどうか分からんぞ。」などと脅かされたことがあったこと、その後も、種々の名目をつけて次々の多額の金を出すよう無理な要求を受けてきたことが認められ、これらの事実を総合すると、控訴人が、加藤俊雄に対して長期間にわたってこのような多額の金員を支払ったのは、主として、控訴人が自らの所得や税務処理の状況などを税務当局に知られることを恐れたからであると推認するのが相当である。そうすれば、右主張の加藤経費が南堺病院の事業遂行上必要な経費であったとは到底認めることはできない。

二  よって、右認定と結論を同じくする原判決は相当であり、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西川賢二 裁判官 最上侃二 裁判官武田多喜子は、転補のため署名押印できない。裁判長裁判官 西川賢二)

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